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MEGURU YAMAGUCHIの「筆跡」―その創作の背景。

MEGURU YAMAGUCHIという作家のあり方を端的に言い表すとしたら、「潔さ」ということばがしっくりくる。ためらいなく筆を動かしたであろう力強いストローク、閃光を放つような鮮明な色彩。躍動感のある筆跡が目の前にあらわれる。 それにしても、なぜ彼の表現は観る者の心を鷲掴みにするのだろう? 単なる視覚的な引力だけではない、揺るぎない強さを秘めているはずだ。今回は、その背景にある部分にフォーカスをあててみたい。
 
MEGURU YAMAGUCHIの「筆跡」イメージ1

YAMAGUCHIの創作の源をたどれば、幼少期に印象派や浮世絵のポストカードをお手本に模写し始めたことに至る。また、ファッションデザインを生業とする両親やその周りのひとたちの存在も欠かすことはできない。豊かな創作意欲や感性でもって仕事を愉しむ「いいオトナ」たちの背中を見て、刺激と影響を受けたであろうことは想像に難くないだろう。 大学受験への度重なる挑戦と挫折、そして渡米。人生におけるいくつもの転機を迎えながら、「純粋にかっこいいものをつくる」という信念のもと、自身の審美眼を頼りに感覚の赴くまま突き進んでいった。
斬新さが際立つ作品からは意外に思われるかもしれないが、実はYAMAGUCHIは誰よりも歴史上のアーティストたちに敬意を抱き、その研究にも余念がない。先人たちの残した軌跡に感銘を受けながらも、ただ同じ道を辿るようなことは選ばなかった。 試行錯誤の末、絵画の歴史が始まって以来普遍的にあり続ける「筆跡」(ブラッシュストローク)というテーマに遭遇した。その本質がむき出しになるまで、余分なものはどんどん削ぎ落とされていった。支持体となるキャンバスをとっぱらい、ついに表面に描かれた彩り豊かな筆跡だけが残った。
 
MEGURU YAMAGUCHIの「筆跡」イメージ2

「カットアンドペースト」は、YAMAGUCHIが独自に編み出した手法だ。描いた筆跡だけを取り出し、 そのフォルムにあわせて支持体を切り抜く。まるで紙のうえでイメージを組み合わせるコラージュのようにしてあらわれた作品は、支持体と一体化したことで物理的な厚みが生まれ、平面的な絵画を超越して彫 刻的な側面を帯びる。 枠を超えて飛び散った絵具のしぶきは鮮烈で、二度と同じようにはあらわれない。一発勝負の真剣さと隣り合わせにある表現に、観るものもそれ相応の緊張感をもって対峙することになる。
もとは伝統的手法から着想を得たところから始まった制作が、試行錯誤を繰り返すなかでやがて既存の枠組みを飛び出し、YAMAGUCHIにしかできない表現へと昇華されていった。突き詰めた先で強度を増したこれらの作品について、もはや絵画や彫刻といったある特定の範疇にあてはめることすら意味をなさないように思える。
誰もやったことのない未踏の領域への挑戦。突き詰めていく追求心。純粋にかっこいいと思わずにはいられないビジュアル。YAMAGUCHIの疾走感ある作品は、各方面のトップランナーたちの心をも鷲掴みする。直近だと、2017年1月にはISSEY MIYAKE MENでのショップウィンドウ展示とコラボレーションアイテムの発表、2016年には拠点とするニューヨークでNIKEとNFLとのスペシャルプロジェクトにおいて作品展示が記憶に新しい。また、STUSSY、ALIFE、CHARI&COといったアメリカのストリートカルチャーを牽引する錚々たるブランドと相次いでコラボレーションを実現させてきた。
本展に先立って、QUIET NOISE(東京・池ノ上)で開催された個展で発表した「OUT OF BOUNDS」シリーズから進化した「SPLITTIONG HORIZON」シリーズでは、自ら描いた筆跡を分断し、新しい形へと変容させる。
固定概念に縛られず、そして現状に甘んじることをも許さずに、自身の深層にある「かっこいい」をあらわし続けていく。アーティスト・MEGURU YAMAGUCHIの感覚的実験は終わることを知らない。
 
MEGURU YAMAGUCHIの「筆跡」イメージ3


原稿=錦 多希子
Text/Takiko Nishiki